業界人のための次世代ゲーム機ファーストインプレッション

 

 

 最初にことわっておきますが、この記事はタイトルに「業界人のための」と書いてありますが、専門的で高度な内容はまったく含んでいません。業界向けの記事ではなく、業界人向けの記事です。

 

 ゲーム業界じゃなくても、PS5のような時代の節目となるような新製品については、とりあえずちゃんと情報押さえてますよ、というスタンスで振る舞いたいという”業界”はたくさんあると思います。

 

 この厳しいデジタル社会をサバイブするためには、PS5を買わなくても、もしくは買ってるけどやる時間なんかなくても、なにかもっともらしいことを語れることが必要とされます。そして、もっともらしいことを、まわりのだれよりも、いちはやく語ることが大切です。

 

 私は、幸いなことにamazonとかオンラインショップの予約はすべて乗り遅れましたが、公式ページでの予約抽選には当選しましたので、昨日届きました。ざっと触ってみた結果、業界人としては、だいたいこんなことを言っていれば、いいんじゃないか、ということで感想をまとめてみました。ひとつの参考になれば幸いです。

 

 そもそも業界人はPS5について、なにを語るべきか?

 

 忙しい業界人としては、具体的なゲームの中身に踏み込んだ発言は控えるべきです。ろくに遊んでないことがばれてしまいます。ひまな学生ゲーマーよりも意味あることをゲームについて語るのは難易度が高いし、そもそも本記事はPS5を本当は触ってないひとが、うんちくを語ることを目的としています。

 

 あたかも本当に触ったひとしか語れないような、簡単なことはなにか?

 

 

(1)「デカさ」について

 

 最初は人間の五感にうったえかけるものでしょう。

 

 そうすると、今回のPS5で最初に言及すべきポイントは、「デカさ」です。本当にでかい。ここを押さえないと、本当に持っているのかよと疑われるぐらいにインパクトのある特徴です。

 といってもデカいことは前評判でも話題になっていましたから、ここでは実感のこもっている表現として成立しそうなものを以下に列挙したいと思います。

 

・ ゲーム機と比較する表現。

「初代プレイステーションを横に2台並べて、そのうえにさらに2台重ねたぐらいの大きさ」

「初代XBOXよりもでかいんじゃないか」

↑正確さという意味では少しオーバーな部分がありますが、購入者の実感をこめた表現ということでは、わりと的確に聞こえると思います。

 

・ PCと比較する表現

「ミニタワーPCよりは小さいけど。スリムPCとはいい勝負」

 XBOXの参入以降、ゲーム機の内部のハードウェアのアーキテクチャーがPCと変わらなくなってきているという状況が実際にあります。

「だって、中身はほとんどPCと変わらないから、しょうがないよねえ」「PCと思ったらあれだけの性能で、あのサイズは小さいよね」みたいな会話をするとちゃんとそういう背景も押さえた会話に聞こえることでしょう。ちなみにNintendo Switchの中身はスマホとかなり似ています。

 

・ 家庭用AV機器と比較する表現

「BD付きHDD録画機とか、AVアンプと同じぐらい」←「もはや家庭用のAV機器のサイズだねえ」とかいうと、なんかゲーム機の家電化みたいな文脈を語ってるぽいかも。

 

 

(2) ○ボタンと×ボタンの意味が逆になったこと

 

 おそらく日本のユーザーにとってのPS5の最大の特徴は、画質でもストレージの早さでもなく、これです。PS2PS3PS4も、とりあえず新機種の購入者は、「絵がちょー綺麗になった」とか言ってればよくて、実際にそれがもっとも強烈な印象に残るポイントだったと思いますが、PS5については違います。PS5の購入者の最大の共通体験は、(日本においてはですが)○ボタンと×ボタンが逆になって大混乱しちゃったよ、です。

 

 これは背景を説明すると、日本のプレイステーションでは、なにかメニューに選択肢があったときに、決定ボタンが○で、キャンセルボタンが×になっていたのですが、もともと日本以外の海外のプレイステーションでは、その意味がずっと逆になっていたのを、PS5では日本も世界に合わせて統一したということです。

 

 日本人的にはなんでやねん???と、さっぱり分かりませんが、海外では×のほうが押したくなるようなんですね。ぼくも大昔だれかに聞いたところによると、×というとたとえば銃での照準かなんかに見えるらしくって、撃つべし撃つべし撃つべし、というようなことらしいのです。逆に○は日本だと肯定的なイメージですが、海外では空白を意味する否定的なイメージがあるようです。

 

 こういう○とか△とか×とかって、言語の壁を越えたシンボルみたいなイメージがありますが、そのシンボルのもつ意味が、じつは世界共通になっていなかったというのは面白いですね。「記号によるアフォーダンスが、国によって実は違っているってことなんだよ」とかいうと、ちょっとそれっぽく聞こえるんじゃないでしょうか。

 

 とにかく、これは大変な苦痛で、最初のPS5の初期設定のときに警告してくれるのはとても親切なのですが、最初だけなので、2回目にPS5を起動するときに、ログインしようとして○ボタンを教えたら、PSボタンをおしてくださいというメッセージがでてPSボタンを押すと、また、ログイン画面がでてきて、以下、無限ループで、どうしてもログインすらできないという状況に昨日は陥って慌てました。たぶん、みんな1回はやると思います。

 

 

(3) 騒音がうるさい

 

 PS4 Proも、やかんが沸騰したかのようなすごい音をたてます。事前の記事では、PS5ではデカイかわりにそこまでは騒音はうるさくなくて済んだというのを読んだ気がするのですが、ぜったいに嘘です。ひょっとすると測定するとPS4Proほどはでかくないという数値がでるのかもしれませんが、体感的には、まったく変わらないぐらいのけたたましいファンの音がします。しかも頻度が高い。基本、CPUとかGPUの処理が重くなると発熱してファンがまわるという構造のはずなんですが、PS5リメイク版のデモンズソウルを起動したら、最初のオープニングムービーがはじまって、すぐにファン音が最大になりました。なんでやねん。ムービー流しているだけだろ、と思いましたが、あ、ひょっとするとふつうのムービーじゃなくてリアルタイムレンダリングやってんのかな?

 まあ、とにかくムービーみているときはひまだし、一応、ムービーで登場人物がしゃべっている台詞とか聞こうとするのですが、騒音がじゃましてうるさいです。

 

 これまでのプレイステーションでは縦置きの場合用のスタンドが付属しました。PS5でもついているのですが、なんと横置きの場合でもスタンドを使えと説明賞に書いています。しかもPS5を横置きするときには、光ディスク付きバージョンの場合は光ディスクのせいで出っ張っている側を下にして置けとか直感に反することを書いています。それだと平におけないじゃん、となるわけですが、それをスタンドつけてなんとかするようです。

 

 たぶん、そんなのがめんどくさくて直感通りに光ディスク側を上にして置いちゃうユーザー多いとおもうんですけど、PS5の騒音聞いていると、それだと熱暴走するリスクがあるのかもなと思いました。

 

(11/14追記)

※ 爆音ですが、そのあと再現しないので、ゲームを大量にダウンロード中にゲームを起動していたことが原因だったかもしれません。

 

(4) 画質についてなにを語るか

 

 次世代機というとやはり画質がどれぐらいすごくなったかということが興味の対象です。これについては、まず、画質がすごくなったといいたいのか、それほどでもないよね、と言いたいのか、どっちのスタンスをとりたいのかを決めたほうがいいでしょう。

 

 やっぱり、これまでみたいにPS5は画質すげえ、っっていいたいひとは、うんちくとして押さえておきたいポイントは3点です。4Kでゲームがぬるぬる動くようになったこと。リアルタイムレイトレーシングに対応できるようになった。8Kとか120fpsとかすげえけど表示できるテレビもってねえよ。この3つでしょう。

 

 レイトレーシングだけ解説すると、これまでゲームのムービーは綺麗だけど、ゲームがはじまって操作できるようになると急に画質が落ちることはあったと思います。とくに出来のいいCGムービーは、まるで実写みたいにリアルに見えますが、実際のゲーム画面のCGが実写みたいにみえることはこれまではなかった。その質感の差を生みだす一番の大きなポイントは、レイトレーシングをやっているかどうかなのですが、大変に重い計算処理が必要なので、これまではリアルタイムでおこなうのが難しかったわけです。このリアルタイムレイトレーシングが、やっとゲーム機でできるようになったというのがPS5のCG進化の最大のポイントです。まあ、なんで、「まるで実写みたいにゲームができるなんて幸せ。しかも4K」とかなんとかを肯定派は言っていればいいです。

 

 否定派がいうべきは、PS5とPS4って、画質の差ってそんなに分からないよね、とかですね。実際、AAAのゲームタイトルをやっても、そこまでの差はでない。4Kテレビ用プレイステーションとHDテレビ用プレイステーションぐらいの差だと思っても、そんなに違わないと思います。4Kテレビないと意味ないよねー。みたいなことをいうのも、それっぽいんじゃないでしょうか?

 

 

 

(5) 従来の機種との互換性について

 

 業界人としては大所高所からPS5とはなにかということについて語りたいものです。ゲーム機の歴史の中でどう位置付けするか。そういうことでいうと、今回のゲーム機の世代交代の特徴は、前世代の機種とのシームレスな移行というのがもはや確立してしまったなということでしょう。

 

 もともと任天堂がはじめたゲーム機の世代交代では、新しいゲーム機では新しい遊びの体験をさせる、というコンセプトがあったように思えて、基本、互換性とかそういうものは考慮されていませんでした。ゲームのハードウェアアーキテクチャーは一から変わるので、当然ソフトの互換性はない。それどころかコントローラまで全然違うのが任天堂のゲーム機の世代交代です。

 

 プレイステーションの世代交代ではコントローラについてはあまり変わらない。でも、新しいハードウェアによる新しい体験を重視するということでは、SONYも似たようなもので、PS3までは、そもそもCPUから自前で設計していました。

 

 それがマイクロソフトXBOXでゲーム機市場に参入したことをきっかけで、PCのハードウェアアーキテクチャーの上にゲーム機を設計するようになりました。これはコスト面だけでなく、GPUの性能面、ソフトウェア開発の容易さという面で優位性がありました。

 

 結果、PS4からほぼ内部のアーキテクチャーはPCと似たようなものになったわけで、PS5はその2代目です。つまり次世代機とはいっても、PS5はいってみれば、PCゲーマーが自分のゲームPCを最新のものに買い換えるのと、大きく違わないわけで、PS4のゲームもだいたいそのまま動くし、PS5のほうが性能がいいのでグラフィックも綺麗なだけ、という状態になりかねない危うさの上で、いまのゲーム機ビジネスはなりたっています。

 

 今回、PS5起動したら、起動直後のメニュー画面のUIも、あんまりたいして変わっていないんですよね。

 PS4の外部SSDドライブもケーブルつなぎかえればそのまま認識しました。

 

 いままで、ゲーム機がふえるたびにテレビにつながるゲーム機は増えていたものですが、今回のPS5については、いまあるPS4は押し入れにしまったも、たいして問題なさそうです。また、今後はマイナーバージョンアップが増えるかもしれません。だってほとんどPCなんだから、ちょっと性能が向上したハードウェアも発売しやすいわけです。

 

 このままPCの世界にどんどんゲーム機もさらに近づいていくのかもしれません。みたいな適当なことをいっていればいいでしょう。

 

 

(6) XBOXとの戦いはどうなるのか。

 

 業界人ならグローバルな視野を持たなければなりません。XBOXもPS5のライバルとしてSeries XとSeries Sを日本でも出しています。日本においては今回もPS5にボロ負けは確実ですが、世界での戦いはどうでしょう?

 まあ、今回もXBOXは日本じゃ全然ダメだよねーと、一刀両断に切り捨てるのは簡単ですので、ここはXBOXの台頭に日本のゲーム業界の未来を案じる憂国の士としては、なにをいえばいいのかを考えてみましょう。

 

 日本ではたぶんPS5の10分の1でもXBOX Series X/Sが売れたら大事件だと思います。ぼくのまわりもだれもXBOXをやっていません。XBOXではプレイステーションの「トロフィー」に相当する仕組みとして、「実績」という点数制度があります。自分のフレンドの中で、今月だれが一番たくさん実績を稼いだか、ベスト3が表示されるのですが、ぼくは、ほとんど毎月1位をとっています。2位も3位もそれ以下もみんな0点で並んでいます。ひろゆきもフレンドに入っていますが、もう何年もXBOXを起動している様子はありません。

 

 ですが、PS4XBOXの両方を持っている僕からすると、XBOXも常に名機ですし、世代毎に完成度があがっているのを感じます。

 

 海外でも下馬評では今回もPS5がXBOXよりも優位という予想が多いようですが、序盤はともかく今回はPS5はPS4の時よりも、だいぶ苦戦するんじゃないかと思いました。

 

 今回もSeries XとPS5を比較して、ちょっとやばいなと思ったことがふたつあります。

 

 ひとつめは、デザインの洗練度において、今回、はじめてプレイステーションが負けたなと思ったことです。プレイステーションがダメというよりはXBOXのデザインセンスが上がりました。とくに思ったのが梱包です。XBOXが入っている紙の箱は小さくてエレガント。プレイステーションは箱はだめですね。昔ながら感がもはやあります。

 

 やっぱり世界の家電製品のデザインのハードルをあげたのはアップル製品だと思うのですが、マイクロソフトはその流れにキャッチアップしているのに、SONYはもちろん昔から悪くないのですが、とりのこされつつあるのかもしれない。そういう印象を持ちました。少なくともかっこいい家電製品といえば全部SONYみたいな状況ではない。

 

 まあ、Series Xもそこまで格好良くはないのでPS5に勝ってるとしても、たいした差ではないですが、危機感を覚えました。

 

 さらに、やばいと思ったのが騒音です。Series Xは相当に静かです。いまのゲームを映画並に世界観を映像で表現するものが多いわけですが、CGでゴリゴリに力のはいった映像が流れるとやかんが湧いたようなファンの効果音が入るというのは没入感を大きく妨げます。これだとPS5とXBOXを持っているユーザーはマルチタイトルはXBOXでプレイすることを選ぶんじゃないのかなあ。

 

 あ、ひょっとすると、だから、なんかヘッドフォンを同時発売したのかな?騒音対策で。

 

 なのでPS5は、はやくファンレスのマイナーチェンジ機を出すべきだと思いました。

 

 

 最後に任天堂について思ったことを書きます。我が道を行き続ける任天堂ですが、このPCのように互換性を最優先というモデルはそれなりに強力です。影の次世代機のOculus Quest 2も、同じ路線ですよね。

 

 だから、任天堂がまた新機種でうまくいかないと、MSやSONYと同じ戦略をするべきだと騒ぐひとたちがたくさんでるでしょう。ちょうどWindows全盛期でMacがシェアを毎年、落としていた時期にMac OSWindowsみたいにラインセスするオープン戦略にしないからだと主張するひとが大量発生したように。

 

 そういう雑音にまどわされることは、任天堂に限っては、よもやないとは思いますが、任天堂らしく独自に信じる道を突き進みつづけてほしいなと、それをひとりのファンとして応援していきたいと思いました。

 

おわり。