NOT A HOTELのビジネスモデル
最初にNOT A HOTELとか金持ちの贅沢で、自分には関係ないと思っているひとも多いと思うが、そうではないということを最初に言いたい。
それは衰退していく日本経済の中で、NOT A HOTELが日本が外貨を獲得する新しい可能性を占めていると思うからだ。
ネットでもメディアでも日本が20年前とくらべて、全然、所得が増えてなくて、その責任を自民党政治のせいだと結論づけるひとが多い。
しかし、冷静に考えて欲しいが、この20年間の間に日本の誇る家電産業は、中国・韓国勢にボロ負けして世界市場から追い出され、半導体も壊滅。日本の輸出産業はトヨタの一本足打法みたいになっていて、気がついたら、金額的にはゴミ扱いされていたコンテンツ産業も日本の重要な輸出産業扱いされる事態になっている。
日本経済が世界で負けているんだから、日本が貧乏になるのは当たり前で、その責任を問うとしたら、第一義には、この20年間の産業界の経営者たちにあるだろう。もちろん国にも政治にも責任あるかもしれないが、日本は国が特定の企業を選抜して応援することを癒着だとして、メディアも世論も厳しく批判するので、できない状況がある。しかし、国際競争を考えると勝てる企業を応援するのが正しくて、産業全体を応援だと駄目な企業も含めて保護する施策にしかならない。
なんで日本経済が世界で負けたことについて企業を責めるのは分かるけど、国に責任をもってくのは違和感がある。メディアと世論が望んだ結果通りに国が特定の企業を応援しなった結果だ。
まあ、とはいっても、特定の企業を国は癒着して応援すべきだったと、ぼくが思っているわけではないことは言っておく。というのは、応援すべき勝てそうな企業を見抜いて応援する目利き能力を日本の国が持っているとも思えないからだ。きっと世界で勝てそうな企業じゃなくて、癒着がうまい企業が国のお金を持っていくだけだろう。
ちょっと脱線が長くなったが、衰退する日本が期待できる外貨獲得手段は観光だ。歴史ある大国としてため込んだ文化資本を切り売りして生きていくしかない。もちろん日本の既存の産業も世界で勝ってほしいが、結構、厳しい戦いが予想される。わりと勝算があるのは、観光だ。なにしろ売るのは日本そのものだから、GAFAも中国も韓国も直接のライバルにはならない。
ぼくがNOT A HOTELに注目するのは、観光産業のなかでも、新しい日本初のビジネスモデルをつくっていると考えているからだ。
NOT A HOTELのビジネスモデルはユニークで面白い工夫がたくさんあるのだが、まず、そもそもNOT A HOTELはどういうビジネスなのかを、さらっと説明しよう。
NOT A HOTELとは雑にいうと、みんなが欲しがるようなすごい高そうな別荘をつくって、30日間*12人で共有所有するという仕組みだ。ぼくの読みだと純粋な建設費だけで考えると、原価率は40%前後だと思っていて、たとえば個人で建設すると4億円ぐらいの別荘だったら、10億円ぐらいの価格設定になって、12人で割って8000万円ぐらいで販売しているというイメージだ。
こう書くとすごく割高に見えるかもしれないが、ぼくは非常に良心的な価格だと思っていて、自分で別荘をつくるんだったら出来ないようなデザイン的な作り込みや、内装、スマホで操作可能なデジタル化、隣家が見えないことがある程度、保証された外構、ブランディングなどの付加価値まで考えると、まったくリーズナブルだ。たぶんNOT A HOTELのトータルの原価率も70%は越えると思う。まだ、投資フェイズだろうから、今、現在はもっと高いかもしれない。つうか、都心のタワマンの価格のほうがよっぽどえげつないし、たいした付加価値つける努力をしていない。
さらにNOT A HOTELの別荘の所有者同士は、お互いの別荘を相互利用できる仕組みがあるので、結果的に自分で全部建設したら100億円以上かかるような別荘を、自分が所有しているような気分になれるというのがNOT A HOTELの仕組みだ。
こう書くと、すでにある会員制リゾートクラブと同じじゃないかと思う人もいるだろうが、NOT A HOTELは別荘のクオリティが違う。どんな高級リゾートホテルでも得られない、これまでだったら自分で金かけて建設するしかないような宿泊環境を実現している。というか、別荘つくるひとでも、こんなに掛けかけては中々つくらないような別荘を部分的にではあるが所有できるというのが違いだ。
そんないいものであったら、なぜ、これまでなかったかというと、ふつうにやるとビジネスとしてのリスクが高すぎるからだ。投資が大きすぎて、リゾートクラブ側で持つのは危険だし、販売するとしても売れなかったらどうするのかということで、これまではできなかったのだろう。
NOT A HOTELはこのビジネスリスクの問題をテクノロジーで解決している。どういうことかというと、NOT A HOTELの新しく発表されるプロジェクト、こんな格好いい別荘、すぐ欲しいと思う映像は、全部CGだ。まだ、つくっていない。だが、映像を見ると、すでに完成しているようにしか見えない。
マンションとかは完成したものを売るが、NOT A HOTELは建設前に売る。超高額なクラウドファンディングみたいなものだ。
このビジネスモデルを実現するためには現実に完成していると思えるクオリティのCG映像が必要で、たぶん外注すると高くつきそうだから、CGエンジニアのチームはぼくだったら内製化するなと思って訊いてみたら、やっぱり途中で内製化したようだ。NOT A HOTELはZOZOやってた人たちがつくった事業だから、ITにはもともと強いようだが、特に重要なコア技術はCGだと思う。
あと立地の選び方も合理的だ。軽井沢や鎌倉などの人気別荘地は、なにしろ人気なのでどっちの方向にも隣地にも別荘が建っていて、田舎の別荘というよりは、田舎の新興住宅街の家を買った気分になってしまう。
別荘らしい自然の絶景を求めようとすると、ちょっと外れた場所を探す必要がある。そういうところはインフラが整備されていないので開発が大変だ。
NOT A HOTELは過去に開発が失敗したリゾート地とかインフラが整っていて、かつ、まわりに他の別荘が見えないすばらしい景色の場所を建設場所に選んでいて、用地取得費用を抑えられるという一石二鳥を実現している。
あと、NOT A HOTELの事業は、別荘の利用権販売のデベロッパー部分と、相互利用とかをやるホテル部分のふたつがあるが、実はどちらも別会社にしているというのがポイントだ。
NOT A HOTEL自体はブランドをもつ企画会社みたいな位置づけになっていて、直接の事業リスクのあるデベロッパー部分とホテル部分と切り離されている。確実にNOT A HOTELは儲かる構造をつくりやすい仕組みだ。
ただし、現在はどちらもNOT A HOTELの関連会社がおこなっているので、事業部門ごとの収支の責任をはっきりさせるという意味でしかないかもしれないが、将来的なビジネスモデルの柔軟な変更を可能にしているという意味でも、頭のいいひとが設計しているというのを感じさせる。
契約書も頭良い感じでちゃんと経営陣がちゃんと中身を考えてつくっている感がある。ようするにえげつなく、守るべき所を守っている。大企業にありがちな、そんなの守ってもしょうがねーだろという弁護士主導のなにもかもリスクゼロを目指したがんじがらめの契約書ではなく、ちゃんと守るべき所を守っている契約書だ。
なんか、話が長くなってきた。NOT A HOTELのビジネスモデルは細かいところにも注目すべき面白い点がいろいろあるのだが、最後に簡単にビジネスモデルの弱点と課題だけ指摘して終わりたい。
ホテル事業の収支だけを考えた場合、オーナーは全く利用せずに、一休かなんかで一般客に宿泊を売りまくるというのが利益最大化の最適解となる。つまりオーナーは施設の建設費だけだしてくれて、利用させないというのがNOT A HOTELのホテル事業だけ考えると一番儲かる。でも、そんなことになったら、そもそもだれもオーナーにならないので、NOT A HOTEL 全体で考えると最悪の結果だ。この短期の利益の誘惑とどうやって折り合いをつけて、オーナーとなる意味をつくることできるかというのが、NOT A HOTELにとっての最重要な戦略的テーマになる。
オーナーの満足度も保ちつつ=サステイナブルにホテル事業の収益をあげる方法は、相互利用を増やすことだ。それも所有している別荘と違うランクの利用を促進するのが重要だ。ランクは上でも下でもどっちでもいい。
ランクが上の別荘を相互利用する場合には、差額を払う必要がある。フルの宿泊料金はとれないが、ブランドを毀損せずにあげることのできる売上として、貴重なはずだ。いま、ランクが下の別荘を相互利用するときに、差額はもらえない仕組みになっているので損をしている感がつよい。差額現金を払うのはつらいだろうから、なにかローコストのメリット、食事が無料になるとかを用意するべきだ。
NFTはNOT A HOTELの潜在的顧客を拡大し、ブランドを毀損せずにホテル稼働率を上げる方法として有望な戦略だと思うが、いずれにせよ、オーナーになるとなにが違うかの差別化はますます重要だ。
ぼくがやることを検討してもいいんじゃないかと思うのは、私物の預かりサービスだ。ホテルと別荘の違いは、私物を置いておけるかどうかだ。オーナー用のロッカーを用意するとかではなく、料金はとっていいので、ロッカーからの出し入れも含めて、NOT A HOTELにやってほしい。自分の本や衣服が本棚やクローゼットに用意されている。勝手にしまってくれる。なんなら相互利用先にも移動してくれる。それがホテルではなく自分の仮想であり理想の別荘の姿なんじゃないか。食べ物についても冷蔵庫に勝手に野菜や卵や肉が用意してくれるサービスも欲しい。余ったら廃棄か、それがいやなら、持って帰れば良い。
クルマも預かってくれるとなおうれしい。テスラも面白いけど、田舎で乗りたいクルマは、また、違うし、できれば自分で置いておくクルマのほうがいい。
たぶん、なんか預けた物品の紛失や損傷の賠償リスクとかが死ぬほどめんどくさいとかがボトルネックになるので、それについては文句を言わないという条件で契約することが必要だろう。
ふつうにサービス開始しても利用者は当初は少ないかもしれないが、NOT A HOTELには、そういう別荘を共有して所有するということはどういうことなのかの新しいライフスタイルの提案を、会社の使命としてやってもらいたいと思う。
というわけでNOT A HOTELには期待している。ぜひ、日本の辺鄙な土地に素晴らしい別荘をたくさん建設して、外国人に高付加価値をつけて売りまくってもらいたい。外国人に売りつけるためにも、日本人が喜んで買うものでもなければならないと思うので、ぼくも協力するつもりだ。
現在、NOT A HOTEL FUKUOKAの一室の30日間利用権を所有しており、KARUIZAWAのMASUとTOKYOも、昨年、追加で契約して完成を待っているところだ。
というわけで、ぼくはNOT A HOTELに成功してもらわないと困る利害関係者でもあるということを最後にお伝えしておく。