人間自身が知財になる時代が来る

  ずっと考えているテーマがある。

  ぼくは結論として人間の時代は終わり、AIが世の中を支配する時代が来ると信じているのだが、問題は、それがいつごろに起こるか、どのような過程を経て、そうなるのか、AIの時代が来るとして、そこで人間の影響はどこまで残せるか、といったところである。

 

 人間がAIにのっとられる前段階として、決定的に重要なイベントはなにかというと、それはわりとはっきりしている。人間同士のコミュニケーションがデジタル化されることだ。

  人間同士がリアルに出会って対面するという行為がなくなった時代は、モニターに映っている本人の映像や、スピーカーから聞こえてくる音声が、本物である必要はなくなる。AIで合成できるからだ。まして、メールやチャットなどの文字によるコミュニケーションはなおさらだ。

  したがって人間からAIへの歴史の主導権の移行は、

 

 ① 人間同士のコミュニケーションがデジタル化

 ② 人間のデジタルコミュニケーションをAIがアシスト

 ③ 実質的なコミュニケーションの主体がAIになってくる。

 ④ 人間ってなんだっけ?

 

 という分かりやすいプロセスを経る。ここまでは容易に想像がつく。

 とはいえ、人間同士のコミュニケーション形式の主流がデジタル化されるというのは、あまりにも大きな変化であり、まだまだ社会全体がそうなるには20年ぐらいはかかるだろう、と思っていたのだが、状況が変わった。

 

 もちろん、理由はコロナだ。

 

 コロナで仕事も一挙にリモートワークが進み、打ち合わせもネットで済むようになった。本来はデジタル移行を拒む年長者の層まで、そうなった。人間が知識を得る手段も対面授業からオンライン学習に切り替わった。この流れは、もう、止まらない。

 というわけで、人間のコミュニケーションのデジタル化が一挙に進み、AIと人間が置き換わる前段階としてのAIと人間の融合が開始できる素地が一挙に整うことになったのを記念して、ぼくが考えていた人間とAIとの融合のプロセスについて、もう少し書いてみようと思う。

 

 人間のコミュニケーションにAIが介在すると、いいことはたくさんあるのだが、実現するには経済的な合理性が必要だ。儲かるかというよりは、継続的な開発費の出し手が存在しそうかどうかだ。

 AI、あるいはその前段階としてのIT技術によってコミュニケーションをアシストしてもらうのに、直接的な恩恵を受けるのは、社会のリーダー層の人間だ。社会のリーダー層の仕事の大半は外部の人間、あるいは部下とのコミュニケーションが占めている。このコミュニケーションをIT技術に支援してもらうことで、より多くこなせるようになることは、そのまま自分の能力の拡大になる。さらにAIによってさらに強力な支援、どころか仕事を代替してもらうことができれば、仕事ができるといわれているひとが、きっと一度は考えたことがあるだろう「自分がもうひとり欲しい」がいくらでも実現するようになる。組織の力を代弁できるような強力な個人は、そういう自分の能力の拡張に費用は惜しみなく出すだろう。

 

 また、AIにアシストしてもらうコミュニケーションをリーダー層の場合は、多忙と力関係を理由にして相手に応じてもらえやすいことも大きなポイントだ。社会のリーダー層がコミュニケーションをAIを使ってでも拡張する合理性は経済的にも社会的にもあるということになる。

 したがって、人間のコミュニケーションをAIに代行させる動きが、最初におこなわれるのは社会のリーダー層になる。一般社会にまで、コミュニケーションのAIへの代行が広がるのは、それよりは後だ。

 

 なので、いつ社会のリーダー層がコミュニケーションをAIにアシストさせるかが、人間の時代からAIの時代への変遷過程において、重要なメルクマールになるわけだが、その前に必要なキーステップはなにかということも気になる。

 

 それも書いてしまうと、組織のメンバーのデジタル化されたコミュニケーションをモニターする機能をもった業界標準となる人事システムが普及すること、で十分だ。

 このような業界標準となった人事システムは、AI時代において、AIビジネスにおけるOSのような役割を果たす。ビジネスにおけるAIの本質は人件費の削減にあるのだから、人事システムがOSになるのは極めて自然だ。業務の目的に応じてカスタマイズされたAIをOSにプラグインで組み込んで使うことになるだろう。

 人事システムが有望なキーステップとなるもうひとつの理由は、別にAIがなくても成立するからだ。仕事がリモート化されてデジタル化された時代に、それを管理できるというだけで十分に実用的だ。将来的にはそこにAIが組み込まれる。

 

 なんか、話が脱線してきたので、人事システムがAIビジネスの大本命だというのはどっか別に書くことにして、表題の「人間自身が知財になる時代がくる」について話す。

 

 人間がAIを通じてコミュニケーションをおこなう時代とはなんなのか?ということを知財という観点から説明する。

 知財の歴史をおおざっぱに考えると、最初に知的財産となったのは、人間がつくりだしたもの、そのものに対する権利だ。これが著作権だ。その次に知的財産となったのは、人間がどうやってつくりだしたのかというノウハウだ。特許権がそうだ。

 

 AI時代になにが起こるか、AIがつくったものの著作権特許権が認められるか、という議論があるのが、これは最終的にはAIの創作物が爆発的に増大しすぎて、そういう権利の保護、運用がそもそも不可能になるという結末しかみえない。そのときに残る知財は商標だけだ。自分が自分であるということを主張できる権利だ。人間がコミュニケーションをAIに委ねる未来には、自分とはなにかをどう決めるかというのが大事になる。

 

 それは人間に最後まで残る権利だろう。人間自身が最後の知財となる。