私は、人間は進歩しないものだと思っています。

”私は、人間は進歩しないものだと思っています。”

そういう書き出しではじまるすごい文章が、壁に貼られていると、昨日、まわりのひとに教えてもらった。

どこに貼られているか?

現代美術館で昨日からはじまった特撮展のある一角の壁だ。

だれのことばか?

ウルトラマンなどのデザインをしたことで知られる彫刻家の成田享というひとだそうだ。ぼくは初めて知った名前だ。


最初の2行だけ引用する。


 私は、人類は進歩しないものだと思っています。進歩しないで変化してゆくものだと思っています。職を求める為に働き、恋に喜び、失恋に泣き、友と語り、嫌な奴と働き乍ら、一人一人は成長してゆきますが、人間そのものはメソポタミアの文明開化以来同じことをくり返しています。
 しかし科学は進歩します。日進月歩、昨日のものは無価値です。科学技術の進歩は生活を変えます。革新的な技術の発達の中で、人間は人間全体の発展進歩だと錯覚して、ボケてゆくのです。営々として生きる本来の人間の姿を忘れてゆくのです。


この檄文の全文は特撮展で読んで欲しいが、もともとは「みやこさろん」という都ホテルチェーンが出しているらしい小冊子に1990年に載った文章らしい。

なぜ、そんなところにこんな文章を載せたのか。なぜ、特撮展に展示されているのか。本人はとっくに亡くなっているから遺族の意志なのか特撮の関係者のそれか。

ただ、ウルトラマンのデザインをした成田享という人間が自らを芸術家であり、彫刻家であると考えていたひとであることは間違いない。そして人間の本質を考え、芸術の高みを目指した人間が人間は進歩しないと断じているのだ。

そして人類の進歩と人間自身の進歩を無邪気に信じるわれわれに警句を鳴らしている。

面白いではないか。